私たち家づくりのプロでも、なかなか解決の難しい課題が「冬の乾燥」。
今回はこの対策についてお話しします。
高断熱・高気密住宅でも、日差しが入らない時・外気温が低い時は「肌寒い」と感じることもあります。
(性能次第で、寒さの程度は変わります。)
これを補うものとして、LDKなどではエアコン・石油ファンヒーター・ガスファンヒーターなどの設備を使うのが一般的ですが、高断熱・高気密住宅では、石油ファンヒーターやガスファンヒーターといったいわゆる「開放型燃焼器具」は使用できません。
気密性が良すぎるので、燃焼した際に発生する一酸化炭素が部屋に充満し、頭痛などの中毒症状を引き起こす可能性があるからです。換気扇が近いキッチンのガスコンロ以外、開放型燃焼器具の使用は控えないといけません。
すると、エアコン暖房を使うことが多くなりますが、ここがポイントなのです。
なぜ冬は乾燥する?
エアコンの話の前に、少し空気の性質について触れたいと思います。
そもそもなぜ冬は乾燥するのでしょうか? 理由は次の通り、空気が蓄えられる水分「水蒸気の量」にあります。
空気の温度 |
空気中の水蒸気の量 |
暖かい |
水蒸気を多く蓄えることができる |
冷たい |
水蒸気を多く蓄えることができない |
冬の空気は冷たくなります。
それまで蓄えていた水蒸気を抱えきれなくなり、飽和すると水や氷になります。
もっと冷え込むと、同じことが繰り返されます。
結果、空気中の水蒸気量がどんどん少なくなっていくのです。
これが冬の乾燥の原因です。
なぜエアコン暖房は乾燥する?
そして、この乾燥の中、室内ではエアコンで空気を暖めています。
空気が暖まることで、空気が蓄えられる水蒸気量の”受け皿”は増えたのに、実際の水蒸気量は少ないまま。
相対的に空気の中の水蒸気量(相対湿度と言います)は、ぐんと下がっていきます。
この状態になると、圧力差により空気と触れている物体側の水蒸気が奪い取られ、物体が乾燥していきます。
さらに、エアコンの風が直接当たることも、乾燥を促していきます。
身体で言うと、皮膚・口などから水分が蒸発していき、肌も喉もカラカラになっていくのです。
エアコン暖房を使った環境で、何の対策もしない場合は、室内の相対湿度は15-30%ほど。
洗濯物がすぐに乾いてしまうほどの状態です。
過度の乾燥は人にも建物にも悪影響
カラカラになるほどの乾燥が長期間続くと、身体にも建物にも次のような影響が出てきます。
乾燥が及ぼず影響
身体への影響 |
・喉の渇きや痛み、ドライアイ、肌荒れ
・ウイルスが活発になる
・ハウスダストを吸い込みやすい
・上記により風邪、感染症を起こしやすい
・静電気の発生、など |
建物への影響 |
・クロスが切れる
・床材に隙間ができる
・木材が割れる
・ハウスダストが乾いて舞いやすい、など |
エアコンを切ると空気が冷えてくるので、仕方なく暖房をかけっぱなしにするか、暖房を切って寒さを耐えるか。。
冬に健康被害が多いのは、寒さと、それを補うために生じる乾燥によるものです。
エアコン暖房を使いながら、できる限りの対策を
私たちの経験上「心地よく潤っている」と感じる快適ゾーンは、室内の相対湿度が50-60%あたりです。
そこに何とか近づけるために、次のような取り組みをしてきました。
(全室を1〜2台のエアコンで賄える高断熱・高気密住宅の家づくりは当たり前として、エアコンの数を減らす対策については割愛します。)
[対策1] 加湿器を併用する
お客さまに加湿器をご用意いただきます。小さなものは効果が薄いので、大型で気化式のものが良いです。
空気清浄機能もついている加湿器もあります。仕様をご確認の上、エアコンのある場所・長く居る場所に設置します。
これで、
室内の湿度を10%ほど上昇させることができます。
[対策2]全熱交換器を使う
換気システムである「全熱交換器」を活用します。家づくりの時に導入します。
全熱交換器を使うと、換気の際、室内の顕熱(温度)と、潜熱(湿度)は外に出さず、室内に留めます。
つまり、換気に伴う室内の温度・湿度変化を最小限に抑えることができるのです。
このシステムでは、
換気ダクトを通じてお風呂の水蒸気も回収し、各居室に配ることができるので、家全体の湿度を程よく保つことができます。換気と併せて、湿度や熱までコントロールできるので素晴らしいシステムです。
このどちらも、何もしなければ湿度30%以下になるところを、40-50%まで上げることができます。
エアコン暖房の乾燥対策としては、最善と言えるのではないかと思います。
そもそも、エアコンを使わなくて良い方法
上記では湿度40-50%まで保てる対策についてお伝えしました。
これは素晴らしい成果で、現在多くの高断熱・高気密住宅でも取り入れられています。
しかし、できれば湿度をさらに上げて「心地よく潤っている」と思える50-60%ゾーンを目標としたいですし、
エアコンの風が皮膚にあたるストレスも減らしたい。局所的に温まる、といった温度差も生じさせたくありません。
そして、私たちが行き着いた最良の湿度コントロール方法は、
なんと、「
エアコンを使わなくても良い家にする」という方法です。
これまで空気の温度について説明をしていましたが、実は「温度」には3つの種類があります。
空気温度 |
空気の温度。 |
表面温度 |
壁・床・天井・家具など、物体そのものが持っている温度。 |
体感温度 |
身体が暑い・寒いを感じる温度。
身体の仕組み上「空気温度」よりも「表面温度」の方が熱を感じやすい。 |
体が感じる暑い・涼しい「=体感温度」は、実は「空気温度」だけでなく、「表面温度」も大きく関わっているのです。
それならば、
これまでずっとエアコンで「空気温度」をコントロールする事を前提にしていましたが、
室内の壁・床・天井など物体の「表面温度」をコントロールする事を前提としていけばいいのです。
表面温度を上げることをするには、建物の外皮性能を更にアップ(G3にする)すると表面温度が高止まりするので、
空気温度を上げすぎないで体感温度を心地いい温度に保つことができます。
これがひいては空気温度を上げないことに繋がり、相対湿度を高く保つことができるのです。
また、もうひとつの具体例として室内に「熱を蓄える素材」を増やすことです。
例えば、土・しっくい・石・タイル・無垢の木材には、大きな蓄熱効果があります。
これらを使った床・壁・天井の「表面温度」は、窓から入る太陽の熱を時間をかけて吸収し、ゆっくり上昇していきます。
また日没後室温が下がってくると、蓄えた熱をゆるやかに・長く放出し続けるので、その熱を受けた身体は、穏やかに温かさを感じます。
これもまたエアコンを使って空気温度を上げる方向に走らないため、相対湿度は高止まりし、それに起因する乾燥は起こらないのです。
「エアコンを使わないなんて・・本当に大丈夫?」と、不安になられる方も多いかと思います。
私もこの考え方を知った時は目から鱗でしたが、家づくりに携わる立場だからこそ、これまでの経験・体験から、とても効果的な方法だと確信を持っています。
また、新築はもちろんですが「表面温度」をコントロールする考え方は、リフォームの温熱対策としても有効。
この「乾燥」のストレスのない心地よさをお客さまにも体験いただきたくモデルハウスを建てました。
ぜひ多くの方に、ご来場頂き、温熱環境に優れた家づくりを知っていただけたらと思っています。